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2009年07月23日 (木) | 編集 |
あきらめる事は……




『 月下 』





すり抜けていった肩の感触がいつまでもてのひらに残っている。
遠ざかる後ろ姿を、なぜ追わなかった?
答えを探すようにもう一度手を見る。


……いいや、わかっていたはずだ。
手をおろし空を仰ぎ見た眼に午後の光が突き刺さる。

――まぶしい――

いつかこういう日がくるとわかっていた。
ただ決心ができていなかっただけ ……考えないようにしていた。神はいつか自分から離れていってしまうかもしれないと。
自分たちの言い争いなど何もなかったかのように人々が通り過ぎていく。
牧は歩き始めた。


いつからだ? 神
いつからこうすることを考えてた?


四六時中顔を見ていた時は疑いもしなかった。
ずっと一緒だと単純に信じていた。
大学と高校。
離れてみて初めて、何かが違ってきていることに気がついた。
気がついても言葉で確かめることはどうしてもできなかった。今までと同じと、信じていたかったのかもしれない。

華奢で小さかった身体はずいぶん男らしくなった。あの容姿で物腰も柔らかくもてないはずがない。女子の比率が男子より少ない海南でもバレンタインには袋一杯に集まったチョコに困ったように笑っていたけれど……
自分の存在は重荷じゃなかったか?

神がそれを望んだら俺はちゃんと手を離してやれるのか?
答えはひとつだ。
そうしなければならない
それでも自分は現実を見ることからできるだけ逃げていたかった。


いつからだ? 
二人でいることはお前には苦しみだったのか? 
……それにも俺は気付かない振りをしていただけなのか?






家に帰り着き機械的に階段を上がる。ドアノブに手をかけて、そこがあまりにも二人で過ごした時間に満ちている空間だということに気づき、リビングに戻った。
神と二人、この家でどれだけの時間を過ごしたか……
思考は堂々巡りで、諦めたように牧はソファに腰を沈めた。

そうだ、ただ心配だった。
自分の眼が行き届かなくなった部で、キャプテンとして上手く采配をふるっていけるのか。だからこそ遠藤にも頼み、神のフォローに回ってもらった。
そんな心配をよそに神をトップに据えた海南は、今年インターハイで見事に優勝を勝ち取ってしまった。
驚いた。もちろん嬉しかったけれど、複雑な気持ちであったことも事実だ。
自分が成し得なかった業績を残した神に対して、はたして羨む気持ちがあったのか?
そんなつもりはなかった ……いや、良くわからない。
ただ負けないようにと、自分ももっと成長しなければという思いにかられて一層練習に力を入れた。
共に過ごす約束を果たせないことが多くなっても、電話口の神は変わらない様子で「わかった」と返事をくれた。


神……


海南に入る前までは名前で呼んでいた。
宗ちゃん、と。
「だからー、海南では名前で呼んじゃだめだからね」
「何でだよ? 別にいいじゃないか」
「だって子供みたいだし……」
「じゃ、宗一郎?」
「それもだめー、特別扱いみたいで」
「面倒くさいヤツだなぁ」
「だって牧さんは目立つし、オレ入部早々特別な目で見られたくないもん」
「わかったよ……呼びなれないな、神か」

男の子なんだから好きになるなと自らに言い聞かせた時点で、手遅れだと気づくのにそう時間はかからなかった。
大きな黒い瞳からは涙がこぼれ落ちてきそうで、そのくせ人より何倍も負けん気の強い所も、何もかもが可愛くて…何よりも大切で……他人に触れなかったあの時期でさえ自分には甘えてくっついてきて……
神にとって自分は特別だと、あの時は間違いなくそうだった……





どうしようもないのか……?
俺はお前を諦めるしか、ないのか……?




玄関の開く音を耳が捕えて我に返る。
「紳一、いるの? 紳一?」
「ちょっと……出てくる」
慌てて立ち上がるとすれ違いざまに母に声を掛け、スニーカーを突っ掛けてとにかく外に出た。







あたりはもう夕暮れに別れを告げようとしていた。月が低い位置に細く輝いている。
スニーカーをきちんと履き直し、牧は走り始めた。
秋風が重く淀んだ呼吸を全部引き出して、浄化してくれるような気がする。
思いつくまま道を選び、走る。とにかく走った。
外周でいつも走った道、海へ続く長い坂、ありとあらゆる思いつく道を繰り返し走り続けた。
汗が吹き出し、流れ落ちる。
呼吸が乱れ心臓が破裂しそうに大きく打っても、尚も続けて地を蹴った。
力つきてついに脚を止めた場所は、神の家にほど近い場所だった。
引き寄せられるように重い脚が動いていく。

顔が見たい。
あの辛そうな顔が最後だなんて……

窓を見上げる。

もし今、あのカーテンが開いてくれたら
……許されるだろうか? 
離れたくないと言っても。
どうすれば側にいてくれるのかと聞く勇気が湧くかもしれない
……神、俺はどうすればお前を失わずに済むんだ?




わかっていた。
選択権は自分にはない




暗い窓を見つめたまま、月明りの中、牧はいつまでも立ち尽くしていた。




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