超絶遅速更新駄文置場 ときどき 日記
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2009年07月23日 (木) | 編集 |
自分はこれからどうして行くのか…神は考え始めてしまいます。




『 未来 』




誰もいないはずの家に明かりが点いている。消し忘れるなんて珍しいこともあるものだ、そう思って神 薫子は少しだけ足を速めた。
玄関を開けると特大のスニーカーがきっちり揃っている。週末はお泊まりと認識していたのに……さては今週もお流れだったのかしらね? さぞやくさっているんだろうと思いながら居間のドアを開けた。



煌々と明かりが点いた部屋のソファで、宗一郎は寝入っていた。
洗濯したてのバスタオルを被って長い脚を折りたたんでいるその姿と言ったら……まるでこたつからはみ出している猫か、小屋に入りきらない犬だ。
「あ~あ、まったく……」
我知らずため息がこぼれる。それでもテーブルの上に置かれた急須と湯呑みを見て、自分の帰りを待つつもりだったのかと思うと頬が緩んだ。
「宗、ちょっと……寝るんなら部屋行きなさいよ」
折り曲げられた膝頭を叩くとごそごそと身動きしてから脚を伸ばそうとひじ掛けに突っかかり、唸り声と共にようやく身体を起こした。
「……お帰りなさい……」
「ただいま。こんなトコで寝てたら風邪ひくでしょ?」
「うん……」
「お母さん達も外だって言ってたし、あんたもいないと思ったから食べてきちゃったわよ。ご飯は? ちゃんと食べた?」
薫子に向けられた瞳は半分寝ぼけてはいるが悲哀に満ちている。判りやすすぎだ……
「あ~あ~、わかったわよ。着替えてくるからお茶淹れといて、そしたら何か作ったげる」
「…はーい」

気のなさそうな返事だった割には、戻ってみるとちゃんとお茶が用意されていた。
すっかり目も覚めたのか今度は薫子が持ってきた紙袋が気になるらしい……確かにその中には買ってきたパンが入っている。
「薫ちゃん、これ、食べていい?」
キラキラした目で訴えてくる。
「だーめー。私の明日の朝用」
即座に拒否すると長い身体が縮こまって、顎がしょんぼりとテーブルに乗った。世界が終ったような落胆ぶりに譲歩せざるを得ない。
「……わかったわよ。ベーコンのならあげる、甘いのはダメ」
「えー」
「えーって、何!?」
「……両方……」
未練たらたらだ。
「じゃ半分づつ!」
「優しいんだかケチなんだかわかんない……」
「あんたねー、ちょっとくらい待てないの? 今作ってるでしょ?」
薫子は手際よく玉葱を切り、炒め始めた。
育ち盛りがいる家では、その空腹に応えるべく何かしらの食材を常備している。神家も例外ではなかった。
冷蔵庫から出した鶏肉を小さめに切って投入、人参、ピーマンなど、彩りも欠かさないよう母親は常に注意している。小さい頃はあれが嫌いこれもダメと駄々をこねていたはずなのに、最近は口に入るものならなんでも来いの食欲で、毎日毎食それを賄っている母親の苦労をあらためて推し量った。
「バターいい匂い~」
「ステーイ!」
匂いに釣られて立ち上がる弟を牽制する。後ろに立たれれば出来あがる前に確実に半分は消えて無くなる。
「…犬扱い?」
「もうちょっと待ちなさい。お湯沸いたから自分で好きなスープ作って。インスタントでいいでしょ」
「んー」
見ればテーブルの上にはきっちり半分にカットされたパンが残っている。いつの間に食べたんだろう……
フライパンから大皿にチキンライスをざばざばとあけて、盛りも整えずテーブルにどんと載せた。対、弟の料理は見た目より速さと、とにかく量だと姉は確信している。
「……ダイナミックだね……」
「なに?文句? いらないの?」
プルプルと首を横に振って宗一郎はスプーンに手を伸ばした。
「いただきま~」
「待つ!」
「えっ!?」
「お姉様にお礼」
「薫ちゃんいつもありがとうございますいただきます」
お体裁にちょこんと頭を下げたと同時に口が動き始めた。
「やれやれ……」
ひと落ち着きしようと薫子も腰を下ろすと、必然的にその食べっぷりを見物することになる。
「…ケチャップちゃんと混ざってないよ」
「文句言わない!」
ダメ出しは細かくても食べている姿はなんとも幸せそうで、山盛りのご飯が瞬く間に消えてなくなっていく。
「……ちゃんと噛みなさいよ」
「はんでふ」
食が細く、騙し騙しあの手この手を使って母親が食べさせるのに苦労していた昔が本当に嘘のようだ。

「……ねえ、宗」
「ん?」
「あのね……こんなこと言うの誰もいないと思うから私が言っとく。あんたさ、紳ちゃん追っかけて海南大に行くんでしょ? それから?」
ぴたりと手の動きが止まった。
「宗もバスケが好きでそれなりに活躍もしてて、間違ってはいないと思うの。でもそこから先」
「先……」
黒目がちな瞳が問うようにこちらを窺う。
「あんた位の年頃って先のことは想像しにくいかもしれないけど、一度考えてみた方がいいと思うよ、この機会に」 
「……」
「私はさ、宗ちゃんが大学出て社会人になってもずーっとバスケしているようには思えないのよね。う~ん…プロにもならないと思ってる ……なんとなくよ?違ってたらゴメン。もちろんこのまま海南大でバスケをしながら自分の前に開けてきた道を進むのもアリだと思うけど……バスケ以外の視点で、これから勉強してみたいこととか、将来どんな方向に進みたいとか、一度考えてみるのも無駄じゃないと思うのね」
「……うん……」
すっかり止まってしまった手を促す。
「深刻な話のつもりじゃないから……食べちゃいなさい」
「うん……」
最後の一粒まできれいに平らげてから、宗一郎は神妙な声を出した。
「ごちそうさま。 薫ちゃん……ありがとう」
「ま、私も出たとこ勝負の人間だから手本にはならないけど。だけどあんたはさ……案外、早く家を出ることになるかもしれないし……」
「薫ちゃん……」
「お風呂入っちゃいなさい。そろそろ大丈夫でしょ」
宗一郎はじっとこちらを見つめ何か言いたそうに口を開きかけたが、結局無言のまま立ち上がった。








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