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夏祭り
2009年04月05日 (日) | 編集 |
すっかり保父さん化している一ノ宮さんが……愛しい(笑)





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『 夏祭り 』

 




蒸し暑い一日だった。それでも夜になると幾らか風が出てきて、汗ばんだ肌をするりと撫でていく。
勤務を終えた一ノ宮は飲み会の誘いを断って、そそくさと基地を後にした。
すれ違った小さな女の子がいっぱしに鮮やかな色の浴衣を着て、両親と手をつないではしゃいでいる。
この先の神社で今日は夏祭りが行われている。
その日程を耳にした時、案の定、真田は行きたがった。
子供のようなことを突然言い出してはいつも驚かされるが、その望みはいたって単純で、なぜだか叶えてやりたいと思ってしまう。

待ち合わせたコンビニの前に、今日は非番の真田がもう立っていた。
すらりとした長身にきちんと浴衣を着ている。
「よっ、お待たせ」
「一ノ宮さん」
「おー、似合う似合う。自分で着た…んじゃねぇよな?」
「嶺が着ていけって、おかしくありませんか?」
「そーだなぁ……もうちっと襟、ゆるめろや。そっちのが粋だ」
わからないらしく首を傾げるので、手を出してあわせを少し引いてから整えてやると、真田は照れくさそうな顔をした。
ぶらぶらと歩きながら一ノ宮は聞いてみる。
「なあ、お前さー、なんで高嶺と来ねぇんだ? 同じ所にいるのによ」
真田は意外、というように返事をする。
「一ノ宮さんと、行くことになってましたよね?」
「三人だっていいんじゃねぇか?」
「普通は二人きりで出かけたいもんだって」
そこまで言って、ぴたりと口を噤んだ。
わかってはいても確かめたくて、一ノ宮は真田の顔を見た。
ほらな、やっぱり……マズイことを言ったと思ってるらしい。真一文字に口を閉じている。
バレバレな反応が面白くて、その先も突っ込んでみることにする。
「そーゆーコト、高嶺は言わねぇよな?」
困った顔で真田はちらりと視線を投げてくる。からかうように眼を覗き込んでやると、観念してぼそりと白状した。
「以前、誘われる度に暇なヤツ全員に声を掛けてたら、そう言われたことがあります」
一ノ宮の知らない時代の話らしい。
「でも一ノ宮さんは俺と出かける時はデートって言いますよね、だから……」
「そんで二人きりになってくれたのか?」
ここで肯くべきなのかと、多分そんなことを考えているんだろう。馬鹿正直なところがまた可愛い。
一ノ宮は軽く真田の後頭部を叩いて、からからと笑った。
「高嶺も誘って、今度はどっかに行こうな」
「はい」
真田は素直に肯いた。
神社の参道までやってくると、規模は小さいながらも露店が並び、行き交う人で結構な賑わいを見せている。
「一ノ宮さん」
「ん?」
「高嶺に土産を買っていきます」
「ああ、そうしよう」


祭りや縁日というものは、どこでも大して代わり映えしないのに、なぜか気持ちを浮き立たせるものらしい。
真田は左右の店の前にいちいち立ち止まり、嬉しそうに眺めてはあれもこれもとやりたがった。
射的では一等のゲームを取り、輪投げでは隣り合わせたおちびさんにせがまれて、ぬいぐるみを取ってやっていた。
そんな真田に金魚すくいを思い止まらせることは正に真剣勝負の交渉で、金魚は水中にいるべき存在でレスキューを望むはずがないと言って、やっと諦めさせることに成功した。
気の向くままに遊んだり食べたりしながらだらだらと奥へ進み、やっと拝殿へたどり着く。
「お参りすっか?」
「はい」
「ほいよ」
賽銭の小銭を渡すと、何やら神妙に祈っている。その隣で一ノ宮も無難な願いごとをした。
眼を開くと、真田がにこにことこちらを見ている。
「ナンだ?」
「とても面白かった……お腹も一杯になりました」
「そりゃ良かった。財布もカラになりました~」
「じゃあ帰り道は俺が……」
冗談を真に受けて、心配そうに言う真田を小突く。
「コラ! 寄り道はナシだ。もう帰るぞ」
十分に楽しんだらしい。帰ると言われても不服な様子も見せずに一ノ宮に続いて石段を降りてくる。
ふと、真田が足を止め、下駄がキュッと音を立てた。
「一ノ宮さん、あれはどうやったら買えるんでしょうか」
「あれって?」
カタカタと歩を進めたかと思うと、真田は至極真面目な顔で、鎮座している狛犬の足に触れた。
「これです」
「おま……コマイヌ買う気か!?」
「嶺の家にも同じのがあるんですが、すごく小さいんです。高嶺にはもっと大きいのが似合うと思うんですが」
高嶺の家の玄関に、ごく小さな対の置物があったことを一ノ宮は思い出した。
「あれはシーサーだろ?」
「違うんですか?」
「違うんです!」
「どう違うんですか?」
「真田…… いいか? コマイヌは犬、シーサーは獅子だ」
「ほー」
「感心するな。それにコマイヌは買えません。こんなのどこに置くつもりだ?」
せっかくのアイデアを却下されて気に入らないらしい。名残惜しそうにまだ狛犬に触っている。
仕方なく一ノ宮はフォローにまわった。
「あー、わかったわかった」
「本当に?」
眼を輝かせた真田を遮って、言い聞かせる。
「ソレはだーめーだ! ほら、アレだ……シーサーみたいに対になってる物、探しゃイイんだろ?」
「はい」
一ノ宮の提案に再び元気を取り戻した真田を連れて、高嶺への土産を探しながら、参道の石畳を引き返すことになった。




◇◇◇◇◇◇◇◇




「で、これですか?」
高嶺は堪えきれず、ついに笑い出した。
そんな様子を見て、真田の口が少しとがる。
「いえ、すみません。嬉しいんですよ、ただ余りにも可愛らしいお土産なので」
「一ノ宮さんがいくら対でも金魚はダメだと……だからその位しか思い付かなかった」
自分に何かを買ってくれようとしたその気持ちが嬉しい。すぐには言葉を出せずにもう一度手にあるものを見つめる。
真田は段々心配そうな顔になってきて、ぽそりと訊いた。
「わたあめは、嫌いか?」
「隊長……」
大切なビニールパックを片手に持ち直すと、もう片方の手を伸ばして目の前の身体を抱き寄せる。
いきなりなので驚いたのか、それとも問題解決はまだだとでも言いたいのか、真田は少し身じろいだがすぐに肩先に額を落ち着かせた。
「嶺も行きたかったか? すまない」
「隊長と一ノ宮さんのデートを邪魔するつもりはありませんよ。行きたければちゃんとそう言います」
「そうなのか? 一ノ宮さんが高嶺も、その……浴衣を着た俺と、出かけたいだろうって」
「それもいいですけどね」
それから、くすりと笑って冗談めかした口調で尋ねてみる。
「隊長、浴衣を着せたら、脱がせるのも俺でいいんですよね?」
しばらくだんまりが続いて、待っているとくぐもった声が聞こえた。
「……まだイヤだ」
はい、と返事をして高嶺は次の提案をする。
「お土産を頂いてもいいですか? 一緒にいかがですか?」
真田は身体を離し、不思議そうな顔をした。
「並んで食べるのか?」
「ちょっと待っていて下さい。いいことしましょう」
そう言って高嶺は台所に入って行った。

さっきは思わずああ答えたが、浴衣を着ていると早く歩くことも、もちろんストレッチもできない。
することもなくベランダに出て夏の夜空を眺めていると、真田の鼻はやがてコーヒーの良い香りを捉えた。
「隊長、どうぞ」
呼ばれて戻ると、いつもとは違った大振りなカップでカフェオレが出される。
「わたあめを入れてみて下さいね」
言われた通りに雲のような飴をちぎって器に運ぶ。
液体に触れたか触れないかのうちに、わたあめが儚いもののようにしゅっと消えた。
それを見て真田の眼が輝く。
「面白いでしょう? わたあめはザラメ糖ですからクセのない甘さですよ。砂糖と同じに使って下さい」
またたく間に消えていく様が面白くて、次から次へとちぎっては入れてみる。
「隊長、下に溜まりますよ。かき回さないと」
「こういう使い方もできるんだな」
面白い実験を終えたように満足気な顔をしてカップに口をつけ、真田は思わずうなった。
「う……」
「甘すぎましたか?」
高嶺は笑ってカップを受け取ると、まだ糖分を加えていない自分の物と一緒に小鍋に戻した。
「温め直しますか?」
真田はじっと鍋を見ている。どうやら考えているらしい。
「いっそアイスに?」
「ああ、それがいい」


もう一度分け合っても十分に甘いカフェオレを口に運びながら高嶺は話した。
「元々は狛犬も想像上の生き物と言われているので、シーサーとは出自が同じだという説も多いそうですよ」
ふいに顔を上げて高嶺に向けられた眼は、明らかにその心中を物語っている。
「じゃあやっぱりあれを……」
「狛犬はいりません」
遮って、ニコリと笑ってみせる。
「こっちの方がよほど嬉しいです。あなたと一緒にコーヒーが楽しめる」
「……いつもそうしている」
「じゃあ、浴衣を着たあなたと。 そろそろ…… 飲み終えたら着替えましょうか?」
いつもと変わらぬにこやかな表情でそんなことを言われると、妙に恥ずかしくなる。
「嶺…… エロ親父」
らしくない悪口を投げてみても、やんわりとかわされた。
「今日はお祭りですからね」








2007/08/12
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猛暑お見舞い申し上げます。
金魚になって水中に住み、嶺さんにレスキューしてほしいねこなのでした。
みなさま、どうぞご自愛下さいませ。




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