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てのひら
2009年04月05日 (日) | 編集 |
トッキューオンリーに出したお話です。





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『 てのひら 』






「おいー、真田よー。まだ怒ってんのか?」
真田甚は声の方向にちらりと眼を向け、すぐに戻した。
低気圧100パーセントの視線である。
「いいえ、全然」
そんなことに怯む相手ではない。案の定面白い物でも見たかのようににやにやと笑って尚も話しかけてくる。
「怒ってんじゃね~か、ん?」
「いいえ、先輩に対してそんな失礼なことは。お気に障ったらお詫びします」
しれっと言ってのける。
一ノ宮一陽は空いている椅子を見つけて腰を下ろすと、キャスターを滑らせてすぐ隣にやってきた。
「さーなーだー」
顔を覗き込んで再度声をかける。
「何ですか?」
今度はちらりともそちらを見ずに、パソコンのモニターを注視している。
「お~い、エイプリルフールにちっとばかし騙しただけじゃねーか」
無言。
常ならぬ頑なさに一ノ宮はアプローチの方向を変えてみることにする。
「あれからお前、付き合ってくんねーし」
座りなおして姿勢を正す。
「悪かったって、俺が」
さらに押す。
「お前とメシ食いに行けねぇと寂しいしよ……」
もう一押し。
「機嫌直せや、な?」

ふいに真田は椅子を回し、一ノ宮に向き合った。
「一ノ宮さん。いろいろと考えていたら……いろいろと腹が立ってきました」
いろいろ? 一ノ宮は構える。
アレの他に何かしたか? とっさに思い巡らしても思い当たることがない。
「なんだ?」
平静を装って聞いてみる。
真田は一瞬ためらいを見せたが、思い切ったように言った。
「どうして俺の副隊長に付いてくれなかったんですか?」
想像外の言葉に椅子からずり落ちそうになる。
「……なんでそこまで遡るんだぁ?」
「だって、必ずといっていいほど、新隊長には一ノ宮さんが付くのに」
一ノ宮の下がり眉がさらに角度を描いた。コイツの可愛さにはお手上げだ。
「あのな~、真田」
口に出したことを後悔しているのか、真田はむっとした表情で見返してくる。
「前によ、嶋本の副隊長が高嶺で良かったんじゃないかって俺が言った時にお前言ったろ? 躊躇なく相談できる高嶺よりも俺っていう存在に尻を叩かれたほうがシマにとってはいいことだって。それとおーなーじーだ」
「同じ? …わかりません」
バツが悪そうに、それでも気になるらしく食い下がってくる。
「だからなー、同じ新米隊長でもキャリアも違えばキャパも違う。最年少で隊長になっただけのことはあって、その時点でお前には周りの様子を見る余裕も備わってた。そんなヤツに俺がくっついてみろ。反対に「先輩の意見伺い」ってな余計な気遣いを、お前はするかもしれない。だから上は副隊長に古株を付けなかったんだと。わかるか?」
少し間を置いて、真田は肯いた。
「おー、わかったか、じゃあ」
「一ノ宮さん!」
……まだ何かあるってか? 
物事にこだわるタイプではないと思っていた真田が、今日はやたらと面白い。この際とことん付き合ってみようと一ノ宮は腹を括った。
二人してきっちりと対峙している姿はまるで何かの面談のようだ。


部屋の向こう側では、休憩中の第六隊の四名が副隊長に配られたおやつを食べていた。
「真田さん、可愛か~」
スプーンを握り締めたまま口を半開きにして石井が言った。
「可愛いんですかね? 真田さんって」
腑に落ちないとでも言うように武山は呟く。
「んなワケねーじゃん」
安堂に間髪を入れずに切り捨てられて、神林は思わず反論した。
「そんなことないよ。可愛いっていうのとは違うかもしれないけど真田さんほど眼が離せない人っていないよね、メグル君」
「兵悟くんと意見が合うっちゅうとは気に入らんばい」
「どして!?」
「どーしてもー」
武山は先輩二人の言い争いを気にしつつ、もっと気になる方向に再び眼を移す。
二人ともまだ面談中のようだ。


「この際だ。全部聞くわ、言えや」
促されて、それでも少し躊躇ってから真田はぼそりと口を開いた。
「この前、嶺とだけ……食事に」
文字通り絶句した。
「……あンなぁ、真田。お前を騙そうって時に本人連れてったら意味ねェだろ?」
普段と何ら変わらないように見えるかもしれない、それでも一ノ宮には真田がかなりな勢いで拗ねているのがよくわかった。いつの間にかこんなことまでわかるようになった自分に感心する、というより呆れる。
単に大の男がゴネているだけなのだ。
それなのにここまでコイツが可愛く見えるってのは、俺もかなり危ねェよな~……一ノ宮は充分自覚している。
「最近一ノ宮さんは全然声を掛けてもくれないし、食事にも誘ってくれないし」
「そりゃあお前が口きいてくれなかったからだろーが」
「それに……長倉さんとばかり一緒にいるし」
「だーかーらー、俺はアイツの副隊長だっての」
「俺の副隊長はやってくれなかったのに……」
「お~い………堂々廻りかよ」
一ノ宮は頭をかかえて、椅子に身を投げ出した。
「わかったから! お前の好きなトコに連れてってやっから ……言ってみ? どこ行きてェんだ?」
ぱっと眼を輝かせて真田は答えた。
「サーティワン」
「あぁ? 飯じゃねえだろソレ」
「嶺が怒るんです」
「高嶺?」
「毎日食べたらダメだって」
「……子供かよ」
「乳脂肪の過剰摂取が筋肉に及ぼす影響がどうだとか、内臓を冷やすのも良くないとか、うるさいんです」
「またお前が人並み外れた食い方してンだろ?」
「ひとつが小さいんですよ?」
俺に訴えられてもなー……

真田と高嶺、この二人の事情はなんとなく知っている。
まぁ当たり前のように驚きはしたものの、今では真田のことを大事にする奴なら男でも女でも構わないと思う。
それでも色々うるさい眼もあるだろうからと、大っぴらにならないように周囲は気をつけているつもりなのに、当の真田は全くといって良いほど頓着していない。
高嶺はと言えば、真田の評判のために黙っているだけで、こっちも本人は知られても構わないと思っているふしがある。

考えてみたら随分お騒がせで大胆な二人なのかもしれない。
急に馬鹿らしくなって、一ノ宮は脱力しきった声を出した。
「あ~、わーった、わーった。ンじゃ行くか」
「本当に?」
それでもこんなに懐っこい顔を見せられちゃあ、ついつい何でも叶えてやりたくなってしまう。
末期だよな、こりゃ…… 自覚はある。それでもどうなるものでもないらしい。
「お~っし! じゃ、仲直りだ」
立ち上がり、真田も立たせると、腕をひろげてがっしと抱き締める。
部屋の向こう側でソファを倒さんばかりの勢いで立ち上がった者、数名確認――──


いやだなぁ、とか笑いながらも真田は律儀に応えてくる。
いつものクセで悪戯を仕掛けたくなった一ノ宮は、背中の手を滑らせて、そのまま小ぶりな尻をてのひらに納めた。
期待していた反応がないので二、三度もみもみと動かしてみると真田はようやく口を開いた。
「一ノ宮さん、それはセクハラなのでは……?」
このニブさが堪らない。
「ん?ああ、そうかもな~。でもな真田、俺の手はたいして大きくない、ここじゃ小さい方かもしれん。なのにお前の尻は俺の手にぴったり納まるんだぜ? 筋肉野郎の尻は結構デカイからそうそうあることじゃねェし、こりゃあ相性モンってもんだ」
真田は不思議そうに後方に視線を落としてから、一ノ宮の手を取ってもう一度押し当ててみる。そして貴重な発見をしたような声で言った。
「本当ですね」
もう…もう…… 堪えきれずに一ノ宮は、真田を抱き締めたまま肩を震わせている。
部屋の向こう側で同僚に羽交い絞めに押さえられている者、二名確認――──


「じゃあな、イイか? 高嶺にはナイショだぞ。後で飯食いに行くって言って来い」
なんとか笑いを治めてから言い含める。嬉しそうに頷いた無邪気な男を目の前に、改めて高嶺の苦労が忍ばれる。
がんばれや、高嶺~……
自分のしていることは棚上げに、一ノ宮は心の中で無責任なエールを送った。





備品倉庫を出て歩きながら、真田は一ノ宮と出掛ける話をしている。
あれから次々と雑事に追われ、結構な時間になってしまった。
「……それで、これから食事に行ってもいいか?」
くすりと笑って高嶺は言った。
「仲直りしたんですね……よかったですね、行ってらっしゃい」
「喧嘩なんかしていないぞ?」
散々怒っていたことはもう忘れているらしい。
風が運んでくるのか、桜の花びらが数片踊っている。
「桜ももう終わりですね」
「うん」
穏やかな笑顔を見ながら高嶺は思う。
二人で出掛けるのが余程嬉しいのだろう……真田は一ノ宮が本当に好きだ。
一ノ宮にだけは、普段の彼からは考えられないような甘え方をする。もっとも自覚はないらしいが…… 
他人に頼ることを知らなかった真田が、おかしな言い方かもしれないが上手に甘えている姿を見ると、自分までなんとなく嬉しくなってくる。  
「それで? 今日はどこに連れて行ってもらうんです?」
何気なく口にした質問に答えがない……あれ? と思って横を見ると、口を真一文字に結んだ顔が眼に入り、笑いがこみ上げてくる。
どうせ二人で悪いことでもしでかすつもりなんだろうと簡単に想像がついてしまう。
「ヤナワラバー」
「ん?」
「困ったワルガキだって言ったんですよ。いいですか? ちゃんと食事もして下さいね」
唇をしっかり閉じたまま、真田はちらりとこちらを見上げた。まるで悪戯が見つかった時の子供と同じその様子に、もう一度笑ってしまった。

「そうだ! 嶺」
黙ったままでいるのかと思っていたら、突然思い出したように話しかけられた。
「なんですか?」
「あのな、俺の尻は一ノ宮さんの手の大きさにぴったりなんだ」
いきなり何の話かと驚いていると話は更に続く。
「ということは、嶺は手が大きいから俺の尻では物足りな……」
ぱしっ! すかさず高嶺の手が真田の口を塞いだ。
もごもごと何かを言いながらもがく様子が、格納庫で作業中のヘリクルーたちの注意を集め始める。
「いきなり何だ!」
抗議する真田に高嶺は小声で言い返した。
「俺の手は隊長の口に合わせてあるんです! ここでそんな話、しないで下さい!」
「口?」
「駄目ですよ、わかりましたか?」
「口か……つまらないな……」
「どこに合わせて欲しいんですか? まったく……」
ポツリともらされた言葉に、一日の疲れが一気に噴出してくる感覚に襲われる。それでも不満そうな真田にやわらかく言ってきかせた。
「あなたの形のいい頭にも、おでこにもぴったり合うでしょう?」
高嶺がくるむように額から頭にてのひらを滑らせて顔を覗き込むと、真田はわずかに照れた表情を見せ、つい、と横を向いた。

格納庫の中の慌しい気配に振り向くと、こちらに向かって一目散に走ってくる男が眼に入る。
「高嶺さんっ!」
ヘリ隊の副操縦士・富岡である。
「富岡さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
挨拶には習性できちんと答えてしまうらしく、キャップを取ってぺこりと頭を下げてから富岡は気が付いたようにまくし立てた。
「いや! そんな場合じゃないです!早くあっちに行って下さい! ウチの機長が!」
真田がにこやかに口を挟む。
「このところ出動が一緒にならないが、イガさんは元気か?」
「はい、おかげさまで……って、真田隊長! ソレどころじゃないんです~」
高嶺がちらりと中に眼をやると、なにやら工具を振り上げ、他の隊員に制止されている五十嵐恵子の姿が眼に入った。富岡の言わんとすることは尤もであるらしい。
しかし真田は、そんなことには頓着せずに話し続けている。
「イガさんによろしく伝えてくれ」
「はいはいっ!申し伝えます」
高嶺は真田の腕を取り、引いた。
「富岡さん、お騒がせしてすみませんでした」
ほっとした表情を隠しきれずに、気真面目な男は再度頭を下げる。
自分の隊長は言わずもがなだが彼女も中々の強者で、サブの苦労は十二分に想像がつく。
「大丈夫でしょうか?」
成り行きを気遣い尋ねると、沸点が低いだけなので……と富岡は慣れた様子で答えた。




休憩室に戻り、待ちくたびれた様子で煙草をふかしている一ノ宮の姿を見て、真田の顔が嬉しそうに綻ぶ。
「一ノ宮さん、お待たせしました」
すぐにも出掛けそうな勢いの真田を止めて高嶺は言った。
「汗臭いまま出掛けちゃ駄目ですよ。シャワー浴びていらっしゃい」
「待っててやるから、行ってこい」
一ノ宮が追い払うように手を振ると、はいと返事をして真田はロッカールームに駆け込もうとする。
「隊長、またそれを着ないで下さいね。シャツ置いてありましたよね?」
引き留めて言い聞かせると、顔をこちらに半分も向けずに頷く。早く出掛けたくて慌てている様子が見え見えだ。
「お前さんも苦労だよな~」
見送って一ノ宮は言う。
「……まぁ、どこまでが副隊長の仕事か区別はつかなくなりますね、確かに……」
「だろーなー……」
顔を見合わせて苦笑する。
「お茶でも淹れますか?」
「いや~、いいわ。……お前も上がれや」
一ノ宮はぐわ~っと伸びをする。ふと眼を開くと高嶺の物言いたげな視線とぶつかった。
「ナンだ? 俺にお前は読めねーぞー、口で言ってくれー」
促すと高嶺は正面に座って、既に諦めた様子で口を開いた。
「一応、お願いしておきます。隊長に変なこと刷り込まないで頂けませんか。尻がどうのと言い出されて焦りました」
一ノ宮は破顔した。
「面白くてな~、つい」
「つい、でやられたんじゃあ困ります……心臓に悪すぎます」
「んー、でもねェだろ? なんたってお世話係のスペシャリストだ。余裕だろ?」
肘をついたまま、一ノ宮は意味ありげに高嶺の顔を覗き込む。
「……なんですか?」
そして、しゃあしゃあと言ってのけた。
「可愛いよな~、あいつ」
「そう思われるんなら、アイスクリームじゃなくて栄養のあるものを食べさせて下さい。あなたの言うことなら聞くでしょうから」
「ナンだ、喋っちまったのか?」
「いいえ。その辺りじゃないかと」
一ノ宮は口を尖らせて口笛を吹く真似をしてからニカッと笑った。
「さっすがですね~、副隊長」
「褒められても嬉しくありません」


「一ノ宮さん、行きましょう!」
超速攻で仕度を済ませた真田が駆け込んできた。
高嶺は立ち上がり、真田に目を向ける。
「容儀点検カ・カ・レ~」
案の定合いの手が入るが、気にも留めずにシャツが裏返しではないか、ボタンが掛け違っていないか、靴下は同じものを履いているか、一通り目を走らせていく。
「髪、乾かさなかったんですか?」
「拭いた」
「風邪ひきますよ」
「大丈夫だ」
「今日は暖けェし、大丈夫だろ?」
焦れる真田に一ノ宮が助け舟を出すと、納得したのか高嶺は半身をずらす。
脇をすり抜けてきた真田は、薄い青地に紺の濃淡の細縞が入った綿シャツを着ていた。着やせするタイプで、こうして見ているとまるでどこかの大人しくて行儀のいいボンボンにしか見えない。普段を知っているだけに、自身で選んだのではないことは一目瞭然で、改めて世話係の選択に感心する。
「じゃ、行くか」
「はい」
嬉しそうに答えた真田を連れて扉に向かう途中、思いついたように振り返って一ノ宮は尋ねた。
「お、そーだ。門限何時だ?」
「そんなものありませんよ。行ってらっしゃい」
高嶺は素っ気なく答えてから、出て行こうとする背中にもう一度声を掛けた。
「一ノ宮さん」
「あ?」
「ちゃんと食事、して下さいね」
ばれたのかと心配顔の真田の肩に手を回すと、もう片方の手をひらひらと手を振りながら一ノ宮は言った。
「ほいよ、任しとけ。救急栄養士」

「救命士です!」
思わず返した言葉は扉に遮られ、声の余韻がよけいに室内の静けさを強調する。



やれやれと目の前にある椅子の背に手を置くと、高嶺は急に力が抜けていくような感覚に捉えられた。
ひとつ、ゆっくりと息を吐く。
……そういえば、久しぶりの一人だ。
夜は何を作ろうかと考えてみても、嬉しそうに食べる相手がいないと気も乗らず、習いのように冷蔵庫の中身を思い描く。
身体を維持するための食事。
それから先の一人で自由に使える時間。


ああ、寂しいっていうことなのか、これは
単純に答えを導き出して、ふと、てのひらに真田のぬくもりを想い起こす。 


………さてと、俺も帰るかな………

あの人のことだ、帰ってきたら何か欲しがるかもしれない。
温かい物でも作っておこうと決めて、高嶺は部屋を後にした。







2007/5/27



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