超絶遅速更新駄文置場 ときどき 日記
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2011年06月30日 (木) | 編集 |
おりきゃら注意報発令中
ダメそな方、お引き返し下さいませ

卒業のシーズンを迎えて……



『卒業』






―――ほんの少しの時間をひとりで過ごしたかった ここで―――



部室のドアを神は静かに開けた。
これが海南大附属高等学校籠球部・主将としての最後の仕事なのかもしれない。
引き継ぎはもう先週に終えていた。
新キャプテンに清田信長。副キャプテンには信長を上手くフォローしてくれるであろう笹倉を自分は推し、その通りになった。
この二人を中心に来年の海南はどう成長して行くのだろう
そんな不安と共に、感慨もあった。
……一連の儀式にも似たこの時期を、牧さんはどんな気持ちで過ごしたんだろう……
自分が後を託す信長を思い そうしたように、牧もまた自分を思い 心を砕いてくれたに違いないのだ。
それら全てが……牧と自分が共有していた世界は、今日を限りに終わりになる。

ロッカーを整理して今日までに明け渡すことになっていた。
最後の時間に、この場所で、牧を思い出さずにいることは無理だとわかっていたから、わざと遅くなるよう時間をずらした。

3年が使っていたロッカーをひとつひとつ開け、ちゃんと清掃がすんでいるか確認する、と言っても自分を含めたったの五人分だ。
篠井、小菅、林原、遠藤、そして自分
結局この中から海南大に進むヤツはひとりもいない。《不作な学年》と大学からは言われるのだろう。自分のわがままを許してくれた監督には感謝と、申し訳なさを改めて感じる。

「……やっぱり」
遠藤のロッカーを開け、神は声に出していた。
もしかしたらと思ってはいたが、やはりここだけ
「らしいって言えばそうだけどね、まったく……」
ふぅ とひとつ溜め息をついて、中の物に手を伸ばす。

「なーにがらしいってー?」
間延びした声に振り返れば、当の本人がドアから顔をのぞかせていた。
「遠藤」
「今日中だろ?期限。ちゃんと来たぜー」
神の脇から手を出して置きっぱなしの参考書をつかみ出しては、何人かの下級生のロッカーに放り込んでいく。
「遠藤?」
「いーのいーの、ちゃんと話はつけてあっから」
残りの雑物を持ってきた紙袋に無造作に突っ込んで、さっさと扉を閉めようとするのを押し止め、神は部室備え付けの雑巾で丁寧に拭いていった。
「最後の最後までまめだよなー」
「だって……明け渡すんならコレが普通だろ?」
振り向きもせずに手を動かす神に、遠藤は頭を下げる代わりだろうか、ちょこっと顎を突き出して言った。
「雑ですんませーん」
「その割には片付いてるけどね……ノブのロッカーに比べたら」
「アレと一緒にすんなよ」
あははと笑って神は雑巾を洗って干す。
「お前がいなくなったらさぁ……あいつのロッカー一週間持たねぇぞ」
「今度は笹倉が尻を叩くよ。代わりはいる、いつでもね」
悟ったような台詞を吐くその横顔には寂しさが押し込められている。
「……なんにでも代わりがいるわけじゃねーよ」
「そう?」
「ああ…… 神」
「ん?」
「あんがとな。お前のおかげで面白かったわ、バスケ部。少なくともこれに、代わりはいない」
ひとつひとつはっきりと告げられた言葉に神の顔もぱっと輝く。
「ああ 俺も! ……遠藤のおかげだ。一年面白かった」
「あっという間だな」
「そうだね」
「三年かぁ…… 1年のしょっぱなの練習ン時から、今週で辞めよう、来週こそ辞めよう、さっさと辞めようって思ってたのに、な~んかここまでやり切っちゃったってカンジ?」
「そうなの?」
「そーだよ!こんなキッツイ部、続けようなんて思っちゃなかったぜー」
「遠藤ってさ」
「あ?」
神はちらりとその顔を見てニヤリと笑った。
「ンだよ…」
「ダメとか言っときながら結構なんでもソツなくやっちゃう、いっちばん嫌なタイプだよね」
「お……」
絶句してまじまじと神の顔を見ていた遠藤は、その後一気にまくしたてた。
「お前には一番言われたくねーよ!! お前こそウンともスンともダメとも言わずにす~っとこなしちまうタイプじゃんよ!」
「…こなしてなんか…」
「ああ、まぁ… でも弱音 吐かないだろって話」
「そうかなぁ」
「そうなの! 頑張りにも程ってもんがある」
「……そうかもね ……言われてみれば、そうかもしれない」
妙なほどの素直さで神は認めた。
気の抜けた声は、水面に漂う木の葉のように頼りない。
部活を離れてしまえば、ここからの受験組はゴールを目指しての一人勝負になる。これからは今までのように隣で見ていることもできない。気休めになる言葉を掛けてやることさえ、自分にはできないのだ。

「神」
「ん?」
「頼み、ってか提案? あんだけど……」
「何?」
「あンさ、オレら……浪人したら一年間の期間限定でもいいから恋愛しねぇ?」
一瞬だけ神の顔からすっと表情が消える。けれどすぐに冗談をたしなめるような微笑みを口元に浮かべていた。
「……またバカなこと」
いつものように茶化して終わりにしてくれと、その眼が言っている。
「いーや。これは結構マジなんだけどー?」
遠藤が神の瞳を覗き込む。長い間―――神にはそう思えた。
「マジならちゃんと答えるよ。断る」
自分でも驚くほど硬い声だった。

「お前さぁ……牧さんとは戻んねぇの?」
そんなことは気にもならないのか、遠藤はいつも通りの物言いだ。
「牧さん…は、関係ないだろ?」
「あんじゃん! ……見てりゃわかるし」
言い返してくる口調とは裏腹に遠藤の眼は柔らかい。
「牧さんと……まぁ…何かあって、その後って状態あんまし良くなかったし。バランス?ってか浮き沈み? バスケそのものじゃなくて気持ちの」
バレていない訳がなかった……どんな時にでも問題なく部がまわっていたのは、遠藤の巧みなフォローがあればこそだ。神の気持ちはたちまちしぼんでいく。
「ごめん……迷惑かけた」
「違うって。牧さんのことは俺的にはどーでもいいの! 単純に考えてさぁ……付き合って、オレと」
「遠…」
「飽きっぽい俺が、楽な道行く信条の俺が、ここで三年頑張ったってことに答えが欲しいんだよなー」
遠藤の手が肩に掛かる。
一年間ずっと隣で自分を助け、推してくれた手。
こんな話をされているのに気持ちは不思議と落ち着いてくる。
「ヘンなの……」
「何が」
「条件反射。緊張、なくなっちゃった」
「あ?」
神が笑う。
「……遠藤、ありがとね」
「俺はマジだってのー!」
自分よりほんの少し上の視線を受け止めて神は話す。
「だからイヤだ。遠藤は好きだけど……付き合うのはお断り」
「じゃ理由、言ってみ?」
「遠藤……志望校北海道だろ? 今年はダメでも次の年に受かったら、行っちゃうくせにさ ……だから付き合えない」
「遠距離はダメなのかよ」
「ダメに決まってるだろ。期間限定だって何だって、…別れ、のは……二度と」
自覚もなかったのだろう、震えた自分の声に驚いてか くしゃりと微笑みが崩れる。
「……わかった、わかったから。ホントお前……馬鹿すぎだ……」
力任せに腕を引き、小ぶりな頭を遠藤は抱え込む。
「……だったら せめて、ここらで泣いとけ…… あと持たねぇから」
抗っていた背中がひとつしゃくり上げて、それから小さく震え始めた。



校門を出た頃には、空に煌々と月が輝いていた。自転車を押しながら並んで歩く。
重い瞼は気恥ずかしかったが、反対に不思議と身体は軽い。涙は何かを洗い流してくれるものなのかもしれないと他人事のように神は思った。
「お前さぁ……」
声に隣を見る。
「何かあったら……や、この際なくてもイイだろ!やっぱ会おうぜ? 明日も 明後日も」
「遠藤…… だーめ、俺達立場同じだろ。崖っぷちの受験生だよ …受からなきゃ」
「なぁ……受かる時はナニやってても受かるし、ダメなときは駄目だって!」
尚も食い下ってくる真面目な顔と、その内容のちぐはぐさに神は笑ってしまった。
「遠藤のそういうとこ……好きだったな。俺には絶対できないけど」
途端に遠藤の眉間に深く皺が寄った。
「過去形で煽りでスルーかよ…… あー…腹立ってくるわ~」
低音で呟かれたボヤキに、何を言われたのか分からず、神はただ首を傾げた。

結局最後まで頼ってしまった遠藤にも、これで受験が終わるまではほとんど会わなくなる。
ここから先は本当にひとりで全力疾走だと、神は唇を固く結んだ。




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