超絶遅速更新駄文置場 ときどき 日記
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《浪音》 参
2011年01月01日 (土) | 編集 |
お疲れさまです。
あとちょっと……




そんな日が三日も続いただろうか。
日も落ちようという頃、才蔵は島影を見た。
ほぼ同時に物見台から声が上がる。
「烏帽子島ー、見ーえーたーぞーぉー」
呼応してにわかに甲板上も騒がしくなる。
「船首正せーぃ」
「二番帆ーっ!上げろー」
「五番、六番張るぞーっ! 縄引け!それェー」
すぐ目の前で広がる帆が生き物のように風をはらんでいく。

「あれが見えりゃあ、明け方には駿河だ」
すぐ下まで元親が登って来ていた。
「……はい」
足首に手が触れる。
温かい、手。
眼を閉じれば身体ごと風に運ばれそうな……それを繋ぎ止める温かい碇。
髪の感触、頬が、そして唇が愛おしむように触れてきた。
「元親様…」
とどめようと伸ばした手を引かれる。
「……もう降りるぞ」
「はい」


部屋に戻って才蔵は取り上げた着物を出してくれるよう元親に頼んだ。
「……今日はこのままだぞ」
しぶしぶと差し出された鈍い色の着物を受け取ると衿を解き、そこから一通の書状を取り出す。
「これをお使い下さい。信玄公の印判状でございます」
「こりゃ…ありがてぇ。港に入る手間が省けるってもんだが、構わねぇのか?」
「構いませぬ。駿河に入りさえすれば……また取りに行くこともできます故」
「わかった、ありがたく使わせてもらうぜ。そんじゃこれから野郎共と段取ることもあるからよ……先に寝ててくれ」
そうは言われても元親を置いて休むわけにもいかずに、才蔵は座して待つ。
耳が捉えるのはずっと変わらぬ波の音……
それでも確実に陸は近付いている。
駿河に着き……そして戻るのだ。

二度とは…

ふつりと思考が途切れる。

何を…思う?

今まで通りの、己の居場所に戻るだけだというのに。

眼を閉じ静かに細く息を吐く。
ただ、波の音を才蔵は聞いていた。






扉を開けて暗いままの部屋に元親の足が止まる。探ってみても気配など感じるはずもない。
まさか… もう?
誰の目にも触れずに海に入るなど、ここでは不可能だ。でも忍なら? あいつなら……!?
「才蔵!?」
思わず声をあげれば部屋の隅から応えがあった。
「…はい」
「そこにいたのか……」
「申し訳ございません。今灯を…」
その腕を引き、力任せに抱きしめていた。

腕の中の身はうつつだが、手放す時はすぐそこに来ている。

……なんだ…?

船の上だけの関係など数えきれないほどもある、その相手を手にかけたことさえ。
執着? 未練?
慣れぬ気分に苛立ちがつのる。

……これが最後ってェんなら、楽しませてもらうだけだろ……

思考を打ち切り、元親はその身体を押し倒した。








自分の着物に腕を通す。
海の色に染められた着物は丁寧に畳まれ、才蔵は身仕度を整えていく。
最後に無造作に髪をくくろうとするのを止めて、元親はその後ろに立った。
「やらせろ」
櫛などあるはずもなく指で髪を梳き、するすると滑り落ちる髪を残さないように纏めていく。
元親は思い出したように口を開いた。
「俺ァ……やっぱり忍は使わねえことにした……確かに思ってる以上の収穫があるんだろうがな。だけど心が通わないヤツとやってくのは、やっぱり無理だと思う」
「それでよろしいかと……あなた様らしいご判断と存じます」
「お前は…どう思ってるか知らねぇが……忍って商売がいらねえ世の中になる方がいいと俺は思ってる、いずれな」
「……はい」
覗き見える才蔵の表情は柔らかい。
縛り終えた手を身体に回し、元親は髪に唇を埋めて薄い匂いを探る。
「…元親様」
「ん?」
「これしか知らぬ故の、浅い考えかもしれませぬが……忍とは、あなた様が思われているほど酷い生業ではないかと……特に真田におりますれば我々の扱いは御家来衆とも何ら変わりはございません」
「そうか?」
「はい。今の己の身にはひとつの不満もございません……ですが私は、初めて知ったように思います。海を見て……まことの自由とは、想像もつかぬほど広いあの海原のようなことを言うのやもしれぬと…… お与え頂かねばできぬ経験を致しました。ありがとうございました」
「……そうか……ああ、そうだな… お前は、案外と海に向いてるかもな。風も潮も、読むのが巧えや」
「そうでしたか」
「…ああ」

鳥の声が増えていく。朝が近い。
先に物見に出した部下が戻ったと、外から声がかかった。
「さあ……港に入るぞ」
腕を解き、元親は部屋を後にした。





****************************************************





停泊した船の甲板で、才蔵は大鴉を腕に留まらせた。
見ていると随分と慣れているようで、艶々とした頭を指が擦れば甘えた素振り見せ、才蔵の髪を銜えては引いている。毛繕いでもしてやっているつもりなのだろうか……
小さな書き付けを足にくくり付けて、再び鴉を空へ放った才蔵に元親は声をかけた。
「これからどうすんだ?」
振り向いた髪は幾筋も、鴉のしたままに乱されている。
……俺がせっかく……
何に気を取られているか見透かしたように、才蔵は手早く髪を整えた。
「私はお館様の御元にご報告に伺わなければなりません。今上田に遣いを飛ばしましたので直接そちらへ行かれるのでしたら……」
「いや…ここに来て信玄公を素通りする訳にもいかねえだろう」
「では躑躅ヶ崎館へ?」
「ああ。俺と……あと二、三人だな。後はこの港で商いと船の修理だ」
乗せてきた馬は三頭、見合う人数を元親は告げた。
「ひとまず休まれてからの御出立になさいますか?」
「いや、俺の馬も船には慣れてる。すぐに動けるぜ。支度するから……待ってろ。一緒に行く」



まだ朝早い港は薄い霧に包まれていた。
荷を下ろしている者の傍らで元親達の出立の準備が整えられていく。
丁寧に体を擦られ、目や脚やその他の具合を見て貰っている馬を見ていると、元親の身内は馬ですら幸せなのだろうと 思わずにはいられない。
それから港に残る者といくつかの確認を行ってから、元親は馬にまたがった。
「いつでもいいぜ、乗れよ」

迷いなく差し出された手は全てを知っている手だ。

この数日、何も謀らず 考えず すべてを委ねた……



そう。この手は幸村様のものだ。



膝を折り、才蔵は馬上の元親に深く頭を垂れる。

「長曽我部元親様。真田忍隊霧隠才蔵、主に代わりまして御身、躑躅ヶ崎館まで御警護致します」



ここから始まる新たなる旅



浪の音はもう聞こえない





《 終 》



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コメント
この記事へのコメント
長曾我部様が、美人と見りゃー手を出さずにいられないところが、すんごく っぽくって萌えます(笑)

幸村スキーとしては、最初のプロマイド配り(笑)のところがとてもとても好きでございます。

あの、殿(幸村パパ)と、才蔵との
あれやこれやが気になりますので
ぜひ!(笑)
2011/01/06(木) 21:19:03 | URL | ぽよ。 #-[ 編集]
いつも妄想の起爆スイッチを入れてくれて感謝(笑)
読んで下さってありがとうございました!
結構長かったのに…お好きな部分がほんのちょっぴしで申し訳にゃかったですv-356
2011/01/07(金) 02:44:22 | URL | ねこ #-[ 編集]
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