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かの眼差し
2009年04月05日 (日) | 編集 |
苦労性の副隊長……振り回されてます。
くるくる))))))





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『 かの眼差し 』






真田甚が特殊救難隊最年少で隊長に就任してから三ヶ月が過ぎた。

この頃、高嶺はちょっと忙しい。
「高嶺、薬くれ」
「ちょっと調子悪いんだよなー」
「風邪ってこんな症状でるか?」
特救隊の隊員たちがことあるごとに不調を訴えてくるのだ。
救命士は医者じゃないんだけど…… そう思いながらも要求されれば、そのつど救急箱を出したり、話をきいてみたりと対応していた。
「シマ? おかしいと思わないか?」
「ん~~…… ナンや?」
「実際何でもないのに、やたらと具合が悪いって言うヤツが多いんだよね」
眠そうに眼を擦りながら嶋本は愚痴った。
「アレやろ? 弛んでるんとちゃうか?」
「そうかなぁ……」
副隊長はお疲れのようだ。
実際、嶋本は真田が隊長になってからというもの気苦労が絶えない。
人見知りという訳ではないが、意思表示の乏しい隊長とコミュニケーションを図り、他隊との連絡も密に、隊員たちからも真田が一人だけ浮いてしまうことのないように常に心を砕いている。

あの人はシマの苦労を分かっているんだろうか……
高嶺は真田を思う。
笑うと可愛らしい顔を嶋本にも見せてやりたいが、多分まだ無理なのだ。
初めて身体を重ねてからもうすぐふた月になる。
真田 甚。
なぜ自分と… なぜ自分は… どちらも分からないままに来てしまった。
雨の中にたたずむ姿を見て、声を掛けずにはいられなかった。
あの人は海の見える公園に立って、ただ濡れていた。

「な~、嶺……」
「なに?」
「今度飯食わしてやー。なんや野菜食いたい……」
机を抱え込むように頬を付け、嶋本は潰れた声でねだる。
そう言えば、以前は自分の所に上がり込んで一緒に食事をしていたのに、最近は御無沙汰だなと思い至る。
「いいよ、何時がいいか言ってくれれば」
「んー、今晩……」
声音が重い。
「シマ、寝ちゃうよ?」
目の前のくせっ毛をもふもふと叩くと、それはそれは嫌そうに身体を起こし、派手な溜め息と共に背もたれに寄り掛かった。
「はあーーーーっ」
「……コーヒーでも飲む?」
苦笑しながら席を立った時に、どかどかと第一隊の面々が部屋に入ってきた。
流しに立つ高嶺を見て、期待に眼を輝かせる者もいる。
香り立つものを隠す訳にもいかず、結局全員の分を用意する羽目になった。




「黒岩隊長、お疲れ様です」
「嶋本。ちょうどいい、来いや」
声を掛けた嶋本を、第一隊隊長の黒岩は手招きする。
「はい?」
「いや、別に大した話じゃねえんだよ。まあ座れ」
部屋の隅まで移動した嶋本に、黒岩はくだけた様子で話しかけてくる。
「お前……頑張ってるな」
「……はぁ」
来るぞ、と覚悟はするものの、それでも何を言われるのか見当もつかず闇雲に腹に力を溜めた。
「あのな、真田なんだが」
「な、何かありましたか?」
「おいおい……」
立ち上がる勢いの嶋本の肩を宥めるように叩き、黒岩は続けた。
「そうじゃねえって。あのな、お前が頑張ってるのは良く分かる」
「……」
「各隊長も助かると言ってる」
「……はい」
「でもまァ、就任から三ヶ月経ったしな、新隊長ったって降って湧いた訳じゃねえ。俺達は全員ヒヨコ時代からのあいつを知ってるし、扱いにくいのは変わんねぇがな……」
「……はい」
言葉を選んでいるのか、少し間が空く。
「とにもかくにも真田はレスキューでは筋金入りの超高性能だからよ、これから先もお前がやるべきことは、あの調子ですっ飛んでく隊長と隊員との橋渡しだけでいいんじゃねえか?」
嶋本は神妙な面持ちで耳を傾ける。
「各隊間のことはお前が頑張らんでも、みーんな真田とお話したがってるしな、疎になることもねえだろ……」
「え? うちの隊長ですか?」
驚いて聞き返すとニヤリと笑って、楽しそうに黒岩は言った。
「お前にゃ分からんだろうなぁ~」
「……それって」
「ん? そりゃアレだ。嶋本副隊長は柳眉を立ててチャキチャキお仕事してっからよ、真田隊長は怖くて話しかけられないって、大方その辺りがオチだと思うぞ?」
「はぁあ?」
「おじさん達は言っとるぞー。おっかねえ副隊長を持つと大変だー、ってな」
思いもかけないことを言われ、嶋本は力が抜けたように机に突っ伏した。
「……どうぞ」
間合い良く、高嶺がカップを置く。
「おお、すまん」
眼で嶋本の様子を尋ねてくる高嶺に大丈夫だと黒岩は頷いて返す。
「ホレ、飲め」
芳香は神経を和らげる。
「ま、少し仕事を減らせってことだ。な」
「……はい」
口を尖らせてカップを抱えた嶋本は、こくこくと自分を納得させるように頷いた。

「ところでさぁ、お前どうよ?」
向こう側の雑談が聞こえてくる。
「まだダメだ……オレ純情派なのよね~」
「真田隊長ってあんな人だっけ?」
「何の実験だったんだ?」
思わず聞き耳を立てて、嶋本は尋ねた。
「……ウチの隊長、何やったんすかー?」
何故だか小声になっている。
「や、さっき俺達ンとこに来てな、眼を覗き込むんだ。じーっと」
答える黒岩までが小声になる。
「何でです?」
「知らねーよ……」

その時、勢いよく扉が開き、一人の女性が姿を現した。
五十嵐恵子。
海保初の女性パイロット、トッキュー隊員ならば誰もが恐れる美女である。
むんずと真田の腕を掴み、発しているオーラに皆が凍りつく。
「シマ」
「はいっ!」
即座に直立する。
「ここでの隊長の躾はどうなってるの? どこに出しても恥ずかしくない様に教育するのも副隊長の務めでしょ?」
「すいませんっ!」
ンな馬鹿なと思いながらも条件反射で謝っていた。
穏やかに話しかけられるのは、怒鳴られるより数倍怖い。
真田を前面に押し出すと、ばん、と背中を一つ叩いて五十嵐は言った。
「真田君、副隊長によーく口の利き方を教えて貰いなさいね」
当の真田は状況が良く分かっていないらしい、不思議そうな顔で振り返る。
呆れて顔を背けた五十嵐と眼が合った高嶺は、至って平静にコーヒーを勧めている。
「……いえ、いいわ」
ニコリと笑うと五十嵐は踵を反し、全員注視の中を悠然と歩いて部屋を後にした。

はー…… 
どこからともなく緊張の解れた溜め息が漏れる。
さて、これからの展開は? 
部屋中の注目が嶋本に集まった時に海難情報が入った。
第一隊が次々と席を立ち部屋を後にする。波が引くように人がいなくなった。

「何したんですか? 隊長……」
嶋本は尋ねてみる。
「……分からない」
「何言わはったんです? 五十嵐機長に」
「…………」
考えているらしい。
相変わらず反応の鈍い人やな~、そう思って質問を変えてみた。
「隊長、みんなの眼ェ見て何しとったんです?」
その言葉で何かを思いついたらしく、真田は顔を輝かせて答えた。
「五十嵐には重そうだと言った」
「は?」
「睫毛が」
何を言っているのか全然わからない、睫毛ってナンや? 嶋本は首を捻る。
「そんなに塗ったら睫毛が気の毒だと言ったら、ここに連れてこられた」
絶句した。
「アンタ、何言うとんのですか……」
「いけなかったのか?」
「オナゴの化粧には口出すもんやないですって」
きょとんとした顔で真田は聞いている。
「命懸けてますから、ヤツらは」
「そうなのか」
分かったのか分からないのか……怪訝な顔をしていた真田は、ふいに自分の隣の高嶺の眼に向けて手を伸ばした。
高嶺は反射的に目蓋を閉じる。
その睫毛に指先を触れさせて嬉しそうに真田は言った。
「嶺の睫毛は気持ちいいんだ」
「……あ?」

単純に導き出した事実に ……何も言えない。
高嶺もじっと動かずにいる。
真田だけが柔らかく表情を綻ばせていた。
持てる冷静さを総動員して嶋本はやっとのことで声を絞り出した。
「嶺……」
「…後で説明する。悪かった」
硬い声で答えが返る。
それでも発声したことでいくばくかの落ち着きが戻ってきた。
「じゃあみんなの眼ェ見てたっていうのも?」
まさか、と思ったが確かめずにはいられない。
「いきなり触るのが失礼だということくらいは俺にも分かる」
「で、見つめたんすか……?」
頷いた真田を思わず怒鳴りつけていた。
「アンタはボケとんのか!どんなアホや! 野郎ばっかりンとこで……分からんのですか!」
その剣幕に驚いて、今度は真田が固まってしまった。
「隊長。嶋本は心配してます、あなたを。 ……シマも落ち着いて」
高嶺が言い添えると僅かに張り詰めていた空気が緩む。
真田は意識的に肩から力を抜いて、一呼吸置いてから嶋本に詫びた。
「すまなかった。その……考えが足りなかった」
こんなに困った顔を見たのは初めてかもしれない。
しょげた様子を見せられると、自分が言い過ぎたのかもしれないと思えてくる。
「だから…… まぁ気ィ付けて下さい。そんな気なくても、小さいってだけで目ェ付けらたこと、俺あるんで……」
「分かった。今後は気をつけよう」
素直に頷き、真田は答える。
構えていたのは自分だったのだと、今更に嶋本は理解した。
こんな馬鹿馬鹿しいやりとりで、初めて会話をしたような気がする。
自分の言葉が届き、そして答えが返って来る。
「隊長、すんません。俺も強く言い過ぎました。 ……あの」
嶋本は改めて真田にきちりと対峙した。
「色々足りないところもあるし、自分は出過ぎるところも多いと思います。どうして欲しいか、言うて下さい」
しばしの沈黙の後、真田は口を開く。
「全部嶋本が先にやってくれるから、自分に足りないものが良くわかる。 ……いつも感謝している」
今まで見ようともしなかった真田という「器」を初めて感じた。
天才だ、神兵だと言われながらも、それは未完の大器で……これから先、自分がその一部でも補うことができればいいと嶋本は真摯に考える。
まっすぐに向けられる眼差しが気になりだすと、急に心臓が波立ち始めた。
「……隊長。人の眼ェ見て話すのは大事やと思いますが、その……考えモンですね、あなたの場合」
「……では、どうしたらいいんだ?」
僅かに首を傾げて尋ねるその姿を目の当たりにして、嶋本はこれからの苦労を覚悟せざるを得なかった。

「真田ァ、終わったか?」
戸口から声が掛かる。見れば第四隊副隊長・一ノ宮が顔を覗かせていた。
「一ノ宮さん。本当に来たんですか?」
「おうよ」
「休みなのに? わざわざですか?」
「デートデート。コーチン食いに行こうぜ」
真田は心底驚いたらしいが、次に許可を求めるように嶋本を振り返った。
「や、どうぞ……行ってらっしゃい……」
思いがけない成り行きに、何をどうしたら良いのか分からない。
「待ってんのにお見合い終わらねーんだもん…… 行けっか?」
迎えるように入ってきた一ノ宮に近付きながら真田は大真面目に「叱られてました」などと言っている。
……ちゃうやろ? 心の中でツッコミながらも、嶋本はもう声を出す気にもなれなかった。




「まぁ……良かったね……」
二人になって、ぼそりと高嶺が言う。
「ああ……って良かないわ!」
嶋本は高嶺に詰め寄る。
「おま……何や!」
「シマ、ごめん。隠すつもりはなかったんだけど」
「ってなー! ………ええわ、後にしよ」
勢い込んで掴みかかってきた手をぱたりと下ろすと、はぁ、と溜め息ひとつ。
「シマ?」
「腹減ってるとロクなことになりそにないしな」
書類束を抱え上げると、嶋本は一息に言い切った。
「ええか? チャンプルー三種、ゴーヤ・麩・ソーメン、それから角煮、沖縄そばにエビチリ、鶏唐に炒飯、ちゃんこにその後雑炊! これ書いたら行くから、作って待っとけ!」
「……食べるの?」
「食う。ツナサラダも食いたい」
高嶺は笑って言った。
「分かった。 …じゃあアイスクリームが食べたかったら買っといで、デザート系はないからね」
「ん……」
勢いが急に削げて、大人しく返事をした嶋本の顔を覗き込む。
「シマ? 待ってるから一緒に帰ろう。食事は風呂に入ってる間に用意できるしさ」
「……アイス」
「コンビニに寄るよ」
黒岩隊長、五十嵐機長、真田と三連発の緊張の後では力も抜けるというものだ。
嶋本がここまで静かな時はかなり疲れているということは、長い付き合いでちゃんと分かっている。
「シマ、終わらせちゃって。俺もここ片付けてくから」
「んー、よっしゃ」
気を入れ直して部屋を出る姿を見送ってから、高嶺は散らかったカップを集め始めた。
片付けながらふ、と手が止まる。
あの眼は何かを訴え続けている……こちらが勝手にそう思い込むだけなのかもしれない。それでもどうしたら応えられるのかと、見られた者は考えずにはいられない。

かの眼差しは全てを溶かす……か。
思いついた言葉に溜め息が出る。

苦労するよ、シマ。
先のことは分からない。
それでも真田と嶋本、三隊の二本柱が通じてくれたことが、高嶺は何よりも嬉しかった。








2007/01/11
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多謝!関西弁指導  PROCYON/ちよじ様





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