超絶遅速更新駄文置場 ときどき 日記
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Yes
2009年04月05日 (日) | 編集 |
最初で最後の 坂真 です(笑)





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『 Yes 』




コツコツと小さくドアをノックすると、微かに気配がして扉が開いた。
「部屋にまで来るとは大胆だな」
俺を招き入れて甚は言った。
「何言ってんだ。隊長なら個室に決まってんだろ」
部屋は何処だ? と先刻飲んでいる最中に訪ね、場所を聞き出した。
官舎といっても個室は結構狭く、ホテルのシングルに毛の生えたようなものだ。
当たり前だが荷物らしきものは何も無い。
荷物も持たないこいつは、朝になったら何も残さずにこの町から居なくなる。
そんな風に考えると少し切ない。
「ま、時間が勿体無いって思うようになったってのは歳ってコトか?」
そう言ってベッドに腰を下ろす。
ちらりと隣の俺を見て、甚の瞳が柔らかくなる。
笑っているんだと、まだその表情を読めることに俺は安堵した。
「滅多に無いよな……こんなこと」
「ああ」
「あのバカ騒ぎでちゃんと食えたか?」
「ああ」
「……会えるとは思ってなかった」
手を伸ばし、短い髪に触れる。柔らかい髪は心地好く、するすると指の間から逃げていく。
ふいとまた視線を流してきて、すぐに眼を伏せてしまう。
それでも俺達は並んで座っている。隣り合う体温が懐かしい。
「なぁ……前にも言ったよなぁ。「はい」と「いいえ」だけじゃ伝わらないこともあるって」
「……ああ」
探しても見つからない、そんな風に甚は答える。
その唇から他の言葉を聞き出したいのに、困っている様子を見るとつい助け舟を出してしまう。
「ま、結構話通じてんだけどな、それでも」
「ああ……」
髪に潜らせた手を引くと、甚はそのままに寄り掛かってきた。
髪を掻き回しても抗う様子もなく、何かを考えている。
甚の頑なさには負ける。
今までも、何回も、こうして俺は甚の言葉を待った。
「坂崎……」
「ん?」
「お前といると、何を言えばいいのか分からない……何を言っても足りない気もするし、言いたくても言葉が見つからないし……」
真面目な男は一生懸命に言葉を選んでいる。
「単純に要約すると、寂しかったってことか?」
茶化して水を向けてみた。
「…………」
「おーい……そこは「ああ」って言ってイイとこだろ?」
また俯いてしまう。
俺はくしゃくしゃと頭を撫でまわし、顔を覗き込んだ。
「じ~ん~、頭で考えて引っ張り出す言葉にどれだけの意味があるもんか。自分の気持ちのまんまに動いてりゃあ、それでいいんじゃないか? お前は」
「思った通りに動いて……結局離れた」
ぼそりと呟くように甚は言う。
「…………だな。 悔しいくらいにすっぱり決めやがって」
俺の一瞬の沈黙を気にしたのか、甚が顔を上げる。
「何だよ、馬鹿だなー…… だから俺も選んだんだよ。嫌だって言われるまで待ってやる」
「坂崎……」
「じ~ん~」
俺はポンポンと頭を叩いた。
「行け行け、お前はこのまま真っ直ぐだ」
「坂崎……」
「で、帰って来い。 ここに」
甚は身体を離し、俺を見る。
その瞳が、静かに俺を見返す。
「せいぜい俺ン所でぐだぐだ言やァいい」
「ぐだぐだなんて…言ってないぞ」
少し不満そうな唇に顔を近付けると、甚は一瞬躊躇してから、そっと触れ合わせてきた。
触れて、やっと自分がどれだけコイツを欲していたかを知る。
温かくて、薄い、柔らかい唇。
いつもの答えを期待して、俺は問い掛けた。
「甚……電気を消してもいいか?」
「ああ……」






2006/09/29


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