超絶遅速更新駄文置場 ときどき 日記
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2010年05月30日 (日) | 編集 |
おりきゃら注意報・発令中
<神・姉が牧と話してます。親しいです。ダメそな方、お戻り下さいませ m(_ _;)m>



さて、お話の中身は
牧がどうやら不調です……
無駄に長くてすんません



『波光』






「っざけんな!」
回したボールが力任せに尻にぶつけられた。
「バカ牧!オマエさっきからなに教科書みてーな単純なパス出してんだ、あ!?」
10㎝近く下からのものすごい剣幕に牧は言葉を詰まらせる。
「帝王様のセンスは中坊レベルかよ!」
「風間ぁー」
いくら後輩相手とはいえ、やつあたりに近い物言いに岡崎は口を挟んだ。
「止めた止めたっ!もーやってらんねぇ!!」
「風間~、おーい」 
後を追う谷口相手に尚も文句を言いながら体育館を出て行った後ろ姿を見送って、岡崎は声をかけた。
「気にすんな、気分屋だから……いつもの癇癪だろ」
拾ったボールを手の中で転がしながら、牧は口を開いた。
「……いや、風間さんに言われたことは合ってます、多分」
「あ?」
「手を抜いてるつもりは、勿論ないです。でも」
部活後の自主練だったから、今日は終わりにしようと岡崎は牧を伴ってコートを出る。
「アイツの癇癪が正当だってのか?」
「上手く説明できないんですが……たとえば可能なパスルートが幾つかあるとして、その他に、なんていうか…ボールをそこに送り出してみたい衝動を感じる時があるんです。そうすると風間さんはそれがわかってるみたいに動いてくれていて…… 多分息が合うとか言われる部分って、そこかなと思うんですが」
へぇと声を漏らして岡崎は牧の顔を見直した。
そもそも高校の入部当時から牧の名は知れ渡っていて、それを裏付けるパワーに自分達は尻をたたかれるように必死にならざるを得なかったのを思い出す。
カンとセンスと、持って生まれた物が牧の方が数段上ということはとうにわかっていることだったけれど……
「同じように…いや、それ以上に練習して、気も抜いているつもりはないんですが」
「ん?」
「最近はそれが無いです」
「…その、衝動ってヤツ?」
牧はただ肯く。
溢れるほどの才能に恵まれたヤツにも壁は平等にあるのだと、岡崎は改めて思う。
「……じゃあ、どうしてたんだ? 今まで……行き詰っちまった時ってさ」
問われて牧も考える。
どうだっただろう? 
何もしてはいなかった。調子の悪い時はあがいても無駄なことを自分は知っていた。
そんな時には……他の練習に付き合ったり、走ったり、たまには買い物に出たり映画を見たり、食べたいと乞われて料理をしたこともあった。
そうだった。隣にはいつも……

「牧!」
高砂の声に顔を向けると体育館の入り口には…… 眼に入ってきた姿に思わず牧は立ちがった。
その様子に岡崎もそちらを見る。高砂の後ろに立っていたのが女性だったので、納得したように顎をくいくいとしゃくって行けと相図した。
「今日はもういいから……話はきっちりつけて来いや、な」
聞こえているのかいないのか、吸い寄せられるようにその場を離れた牧と入れ違いに戻ってきた高砂に冗談めかして話しかける。
「ん~……帝王もただのオトコってことかぁ?」
「岡崎さん? 違いますよ、あれ神の姉さんです。会ったことありませんでしたか?」
「……神? ああアイツ?」
「牧とは中学の時からの知り合いだから」
「な~んだ」
どことなく残念そうな声を聞き流して、高砂は牧の背中を心配そうに見遣った。

近付きながら面影の重なる顔に見入ってしまい、対峙しても言葉が出てこない。
「こんにちは、久しぶりね」
声をかけられて我に返り、牧はあわてて頭を下げた。
「話したいんだけど……今から出られる?」
「薫さん……」
なんの話かは容易に想像がつく、それでも逃げるわけにはいかない。
「わかりました。着替えてきます」
「駐車場にいる、車で来てるから」
そして10分後、牧は車中の人となっていた。



薫子は別段構えた様子も見せず、軽い調子で聞いてきた。
「お腹空いてるでしょ? なに食べたい?」
「薫さん」
「深刻な話は後ね。空きっ腹のまんまじゃまともな会話が成立しないことくらいわかってるし」
自分を前に食べる気にはなれないとでも言いたげな牧の視線を感じてか、薫子は続けた。
「スポーツ馬鹿の胃袋が脳とは別の人格持ってることくらい知ってるわよ」
簡単にあしらわれて敵わないと思う。牧は意識して固まっていた肩の力を抜こうとした。
それ以後は別段話を振ってくるわけでもなく、薫子は無言のまま車を走らせる。

数分後、滑り込んだ場所は海辺の古いレストランだった。
夏には必ず30分以上は待たされるこの店も、秋も終わろうという時期に夕食時間にも少し早いせいか今日はパラパラと空席がある。
案内されて席に着くと、薫子はさっさと一番人気のセットを二人分オーダーした。ここに来る客がたいてい注文するそれは、ボリュームもそこそこの神も気に入っていたメニューだ。
痩せの大食いは神家の血筋なのか、昔からしっかりと食べる薫子を見慣れていた牧は、同年代の女子の余りにも少ない食事量に今でも驚かされている。
料理を前に幸せそうに食べる所作……フォークの扱い方や、口の端を拭う仕草は神と良く似ていて……眼で追ってしまいそうになるのを押さえながら牧も料理を口に運んだ。



食事を終えて外に出ると、さっきまで紅く輝いていた夕日は姿を消し辺りは薄闇に包まれていた。
車を置いたまま、浜へと続く狭い石段を下りていく。夏には日が暮れてもまだ人影が残っている浜も今日は閑散としている。
寄せては引く波の音を聞きながら、今年は片手で数えるほどしか海に来なかったことを今更のように牧は思った。
「足を延ばせばすぐなのにね、ずいぶん来てないなぁ……紳ちゃんは? 良く来てるの?」
「いや、俺も。今年はほとんど来なかったって思ってました、今」

歩き始めてすぐに砂が入ったと、薫子は裸足になろうと身体を折った。
差し出された手を支えに靴と靴下まで脱いでしまうと、そのままじっと牧を見上げて、そして言った。
「……考えてたの。謝ろうかどうしようかって」
「え?」
「宗が海南大に行かないって言い出したの、たぶん私のせい」 
「…そうですか」
「あの子、ホントに単純にあなたの後を追いかけて行こうとしてたから、忠告した」
牧は黙ったまま歩き始める。
「でもね、その後なんでこういう状態になってるのか、わかんないから説明してもらおうと思って、それで会いに行ったの」
無言のまま歩き続ける牧に、そんなことは気にしないとでもいうように薫子は並ぶ。
「大学に行って、紳ちゃんもてるから彼女できて、ってパターンも考えてみたけど」
隣を見もせずに薫子は言葉を続ける。
「違うわね、どう見ても……… 宗が別れるって言ったの?」
聞くまいと思っていても押さえきれずに、どうしても知りたかったことを口にした。
「あいつ……どうしてますか?」
「気にはなるんだ?」
「そりゃあ……」
「バスケと勉強」
素っ気ない返事に続ける言葉が見つけられない。
「だって、それしかやることないもの」
音に誘われるまま波打ち際に寄り、暗く光る波面を追う。
どのくらい時間が経っただろう、浮かぶ言葉を打ち消しては、また考える。
長い時間を無言のまま、二人は並んで立っていた。


「……薫さんは、全部知ってるんですよね?」
「……そうね、多分……」
薫子はあえて軽い調子で続けた。
「紳ちゃんのママだって知ってるでしょ? 本当は」
「そうですね ……周りがみんな、見逃してくれてたのはわかってました。親がつっこんでこない限りはまだ言う時じゃないと、俺はそう踏んでたけど……それもあいつの塞ぎのタネだった……」
牧は静かに、ゆっくりと息を吐いた。
「どうすれば良かったのか、今でも考えます。もう終わったことなのに、どうすれば良かったのか……そもそも初めが、間違っていたのかとも」
「初め?」
「……初めから俺がブレーキを掛けていれば……ずっと幼馴染みのままで、先輩後輩のままでいられたかもしれない。だけど できませんでした……どうしても」
薫子は静かに耳を傾ける。
「宗が、好きです。でも俺には …始めてしまった、そういう意味でも責任があると思ってます。だから大人になって、色々なものが見えてきて、そしてあいつが嫌だと言ったら……あいつが、もう嫌だと言った時は引く時だと…決めてました、昔から」
自身にも言い聞かせているかのようにゆっくりと、深い声が残る。
昔からひどく大人びていたけれど実際は一つしか違わない牧が、一生懸命に弟を大切にしていたことを知っている。辛抱強く宗一郎に相対する姿は、姉の自分が見ても見事な保護者っぷりだった。そんな彼の心の内を聞くのは、初めてかもしれない。
「……選択するのは宗なの? 紳ちゃんの気持ちは、いいの?」
「俺……?」
とっさに発せられた質問に牧は言葉を詰まらせた。
「……昔っから宗はあなたが大好きで、それまでは私にうるさくまとわりついてきたくせに、紳ちゃんに会ってからは手のひら返したみたいに今度は牧さん牧さんって…… 宗があなたを好きになって、あなたも自制できないくらいに宗が好きで……なのにあなたはそれでいいの?」


俺が……
あの時……俺が止めていたら?
それをあいつは望んでいたのか……?
―――わからない―――


「今日会って……もし紳ちゃんが宗のこと振って平気な顔してたら、一発殴って、さっぱりして、それで終わりにしようと思ってたの。だけどねぇ……コートの中で紳ちゃんのこと探したのって、私 初めてかな」
「探す?」
「そう、全っ然目立ってなかった。存在感ないったら、ヒドイもんよ」
ひとつ大きく息を吐いてから、考えをまとめるように手を組み合わせ薫子は続けた。
「ガラじゃないけど、私も結構真面目に考えて……それでね、ひとつの結論を出してみた。これは必要な隔たりなんじゃないかと思うことにしたの」
「…必要……?」
思いもかけない言葉に牧は隣を見た。
「あんた達って、そうだな……ちょうどひとつの植木鉢に一緒に育っちゃった木みたいだと思って。ずっと一緒だから窮屈さとかは感じてなくても、でも本当は株分けしないとちゃんと立派な木にはならない……どう言ったらいいのかな……しっかり根を下ろして大きく枝を伸ばして……それぞれが自分を確立する為には、一度離れてみることも必要なのかもしれないって、そう思った」


離れる……一度?
……確立?


「いつも紳ちゃんの後を追っかけてた宗が、初めて一人で、どうしたらいいか必死に考えてる……まぁ、辛そうだけど…… このハードルはあの子にとって必要なんだと、今はそう思うことにした」


それじゃあ……
あれは……
お前は……


「もっとも気持ちを冷ますのも距離と時間だから、元に戻る保障はないけどね ……でも冷めちゃうんならその方がいいんでしょうね」
「薫さん」
「一般論よ」


離れていれば……この気持ちはなくなるのか?
俺は……
そうすることで少しでも先を見通せるかと、牧は視線を上げた。
眼に映る光。
鈍く光る波頭は、どこか悲しそうな神の瞳に似ている……
ふと浮かんだ印象に、フラッシュバックのように別の思考が重なった。
もっと前に…………きらきらした瞳が夏の海みたいだと思ったこともあったのに?
悲しそう? 不安そうな?
そんな風に見えていたのは……いつからだ……

記憶が巡る。
昔は……結構わがままも言った。
意識して線を引くようになったのは……海南で先輩後輩の立場になってからか?
それはいつの間にか習慣になっていって……
本当は抱えていることの半分も俺にはぶつけていなかったのではないかと、その時牧は思い至った。

なぜ……
いや、そんなことはわかりきってる。
今の、平穏に見えるこの状態を、あいつは壊したくなかった……多分、そうだ。
俺がうるさがるかもしれないと?
現に時々口にのぼらせる不安を、いつものことと流しはしなかったか
まだ先のことだと話半分に聞いてはいなかったか
俺の態度は、どれだけあいつを心細くさせただろう……
負けず嫌いで意地っ張りのくせに、それでも海南に入る前は結構甘えてくることもあって……これで気持ちをリセットしているんだと……わかっていたはずなのに



……なんてことをした


俺は いつから……
いつからあいつの心を覗いてみようとしなくなった?
選ぶのは神だと、そんなことを自分に言って聞かせながら、その実終わるなんてこれっぽっちも考えていなかった
ずっとこのまま続いていくと、なぜそんな風に思えていた?
何の疑いもせずに……
神はいつも  隣に  いると















「……そろそろ帰ろっか……ずいぶん風が出てきたし」
思考を引き戻されても、牧は顔を向けられない。
無言の牧を薫子は見上げる。



「……俺は …………馬鹿です」

こぼれ落ちた言葉を聞き取ったのか、薫子は風が乱す髪を押さえてしばらく牧を見つめていたが、次に手首を掴むとお構いなしに歩き始めた。
「紳ちゃんだけじゃないでしょ、宗も逃げたのよ。逃げて……それで後悔してる。だから考えろって言ってんの。これからを よ ……このままで終わらせるのか、それとも……」
風の中、肩越しに投げつけられるような声、ひとつの言葉が牧の耳を射抜いた。

……これから……



これから……?

じわりと湧きあがる希み。

これからがあるなら
これからを考えていいのなら……




取り戻したい……
取るべき手を、俺は握らずに離してしまった。
どうすれば……
あいつが戻ってきてくれるには、一体なにをすればいい?
考えろ……
いよいよ強く吹き始めた海風の中を、砂を踏みしめて立つ。
みしりと埋まる足裏の感覚。




……ああ、そうだ……
俺が心を決めなければ、なにひとつ変わりはしない
たとえどんなに時間がかかったとしても……
見通せない先の曖昧さと頼りなさに、考えることを避けていたこと
その不安は……あいつに抱えさせるものじゃない
―――昔から大人扱いされてばかりきたが―――
本当にそうなるべきなのは 今なんだろうと、牧は思った。




神…… 
あいつも今、風の中を歩いている
苦しくても意地を張り通して、きっと突き進む
今度こそ……俺は間違えない


再び脚を止めてしまった牧を置いて、薫子は靴をつっかけて石段を上り始めている。
「紳ちゃん、行くよー」
中ほどから声をかけられて、弾かれたように牧も石段に向かった。




……もう一度

必ずもう一度

お前に会って

それから……



しだいに小さくなる波の音をいつまでも捉えようとしながら、牧は柔らかな笑顔を思い出していた。




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